ボンボンストアのデザイナー・井部祐子が、傘にまつわるさまざまなエピソードをコレクションしていくこのコーナー。第1回は、2017のルックのモデルを務めてくれた女優の澁谷麻美さんにお話を伺いました。
“傘の表情を引き出す撮影を”
井部 WEBで新しくコラムを作ろうとしたときに、まず最初に麻美ちゃんにお話を聞きたいと思ったんです。それは麻美ちゃんにモデルをしたときの印象が、ほかとまったく違ったから。気怠そうな雰囲気がすごくよかった。
澁谷 うれしいです。でも私、何も考えずに撮影していた気がします。野性的な勘で動いていたというか。お芝居もそうで、職人タイプの女優さんもいるけれど、私はそのときどきで変化するタイプなんです。
井部 よくファッション誌で傘を持っているシーンがありますが、洋服が主役になってしまうからか、ごく実用的な感じが多いんです。傘が雨の日の脇役になっちゃう。だけど麻美ちゃんはもっと自然。
澁谷 それは私がモデルではなく、女優だからかな。私にとってファッションモデルは自由度が低くて、もっと自分をむき出しにできる女優が向いているみたい。昔から読書が好きなんですが、それも読んでいるあいだは自分の感性が自由になれるから。
井部 感度が素晴らしいんだと思う。傘を渡したら何も言わなくてもくるくると動いてくれて、フォトグラファーが追いかけるのが大変なくらいだった(笑)。
澁谷 ボンボンストアの撮影は、デザイナー、フォトグラファー、モデルと、それぞれが自由なのがいい。写真にはそういう空気感が出ていると思います。前回の撮影はものすごく日差しが強い日で、壁に映ったレースの日傘の影がすごくきれいだなと思いながら動いていました。
“ボンボンストアの傘の魅力とは?”
井部 麻美ちゃんとの出会いは、デパートのポップアップショップにお客さんとして来てくれたことでしたね。
澁谷 そうでした。日傘を探していたところに、インスタグラムで見ていたボンボンストアが出店すると知って見に行ったんです。
井部 アフリカのバーニュの生地の日傘を買ってくれたんですよね。
澁谷 本をモチーフにした柄で、読書好きな私にぴったり!って一目惚れ。ずっと好きな日傘に出会えていなかったから、すごく嬉しくて。
井部 麻美ちゃんによく似合っています。
澁谷 普段、デニムにTシャツとかシンプルなパンツスタイルとか、ボーイズライクな服が多いから、一般的な日傘のデザインがフェミニンすぎる気がして買えなかったんです。でもボンボンストアの傘はキュートかつタフな感じで、しっくりくる。ワンピースにも、太めのパンツにも合わせやすい。
井部 こないだばったり会ったときは、ロングのトレンチコートにピンクの傘を持っていて、すごく可愛かった。
澁谷 洋服のコーディネートに遊びでピンクを取り入れるなんて、ボンボンストアの傘じゃなきゃ考えなかったかも。気分によって傘を変える楽しみを覚えました。
井部 私、同じ道を歩くのが苦手なくらい、飽きっぽいんです(笑)。だから傘もその日の気分で選びたい。
澁谷 やっぱり雨の日って憂鬱だから、気分を上げてくれる明るい色って大事。服だと勇気がいるピンクとかイエロー、グリーンみたいなパッと華やかな色も、傘だと取り入れやすいし。
井部 傘を選ぶときに「鏡を見てみてください」というと、みなさん不思議そうな顔をされますが、色や柄の長さによって、全身の印象ががらりと変わるんですよ。
澁谷 ボンボンストアの傘は、一見、個性が強いけれど、実は主張しすぎない。世界観が広いというか、あらゆる人に似合うんですよね。私はブランドのロゴのようなわかりやすい、ステレオタイプが苦手。洋服も着る人が着崩す感じが好きなので、傘も持つ人によってイメージが変わるくらいがいいと思う。
井部 傘も洋服と一緒ですよね。コーディネートの一部。だからマーケットにありそうでない傘を作りはじめたわけです。
澁谷 そうなんです。私はボンボンストアの傘と出会って、やっと、傘を自分の一部として扱えるようになりました。
井部 そんなふうに言っていただけると、うれしい。
“もの作りともの選びのこだわり”
澁谷 私、バンブーの柄の白い傘を持っていて。合わせる服を選ばないのがいいところだと思って選んだのですが、使っていると男性にすごく褒められるんです。顔色もぱっと明るくなる。
井部 白い傘は製作中にも汚れやすいし、作る側からするととってもリスクが高い。だけど、それだけの価値があるんですよね。鏡を見るとわかる。
澁谷 やっぱり汚れは気になるから、使ったあとはすぐに干すようにしています。
井部 正解! 汚れに気がつきやすいというのは、言い換えると、こまめに手入れするから長持ちできるということ。濃い色の傘はたしかに汚れが目立たないけれど、汚れていないわけじゃない。目立つ汚れは対処すれば、その分長持ちするわけです。
澁谷 せっかく選んだものだから、できるだけ長く使いたい。私にとって、物を選ぶのってけっこう大変なことなんです。財布一つ、納得いくものを探すまで買いたくない。どこのブランドかはわからないけれど、上質で、自分だけのものって思えるようなものを、いつも探しています。財布や傘といった持ち物は、身に着ける洋服よりもこだわって探すかも。
井部 麻美ちゃんとは、こだわるポイントが似ているような気がします。私は小さなことにすごくこだわりがあって。バッグをデザインしていたときも、「あと3mm詰めて」なんて指示を出してました。そういうちょっとしたことによって、全体の印象が変わっていくと思っています。
澁谷 わかります。私もこないだ、同じシーンをひたすら繰り返すという実験的な映画(「王国(あるいはその家について)」)に出演したのですが、声の高低や抑揚、言葉の切り方ひとつで、イメージが変化するんです。そういう繊細な演技を大事にしたいなと。
井部 傘も同じで、骨の張り方や中棒の長さ、石突き(傘の先端)の長さといった細部のデザインで、全体のシルエットが全く変わってくるんです。持っている人の全身のバランスが変わるくらい、影響がある。

澁谷 ボンボンストアの傘は、柄が短めのものがありますよね。
井部 そうなんです。東京は人が多いし、雨の日はまだしも、晴れた日の日傘は、ほかの人に配慮するのを忘れてしまいがち。だから柄を短めに作ると、人に迷惑がかかりにくくなるかなって。持ち歩きもしやすくなりますし。
澁谷 ほかに、ものづくりにおいて、大事にしていることってありますか?
井部 格好いいことを狙うより、細かいこと一つ一つを大事にするということかな。私、デイリーに使うものこそ、デザインや使い勝手を大事にしたい。毎日見ていて飽きないものを側に置くという習慣こそが、自分自身をワンランクアップさせることにつながると思うんです。そして、そういうものを大切に使っていくことで、自分自身が豊かになり、人にも気遣いが出来るようになる。普遍的な”無意識の美”をつくりだせるのではないかと、いつも考えています。
澁谷 確かに。ボンボンストアの傘は、使ってみると、もう1本欲しくなります。
井部 季節に合わせて色を選んだりするのも楽しいですよね。ボンボンストアの傘は、定番アイテムとしながらも、実は少しずつ改良したりしているんです。できるだけ長く愛着を持っていただけるような、そんな傘作りを目指しています。
澁谷 少しずつ揃えていきたいなあ。
プロフィール
1987年鹿児島県出身。2014年に映画『螺旋銀河』に主演。翌年、『いたくても いたくても』(15)での演技が評価され、第16回TAMA NEW WAVE コンペティション部門ベスト女優賞を受賞。趣味は読書、ジャズダンス。
撮影/福場慎二 ライター/藤井志織 ヘアメイク/福場みどり