news

HOME > news > ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

CATEGORY | column
POSTED | 2020年1月31日

2018年、BonBonStoreは海外での展示会に出展するというチャレンジに挑みました。そのときの様子やそこに至るまでのあれこれを、プレスをお願いしていたalice daisy roseの黒田トモコさんと、デザイナー井部祐子との対談にてお届けします。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

井部 トモコさんとは、共通の友人(vol.2に登場していただいた岡本敬子さん)を介して知り合ったのよね。

黒田 うちにいたにゃおという猫に会いに来てくれたんじゃなかったかな。多分、7年くらい前ね。

井部 そうそう、「プレスルームにすっごく面白い猫がいるんだよ」って聞いて、会いに行ったの。7年前となると、私はディーズホールで、捨て身の覚悟のイベントをした頃です。というのも、傘を作り始めたときと比べると職人さんも少なくなってきて、工場さんの在庫に頼れないから自分で骨からオーダーしなくちゃいけなくなって。そんな数の在庫を抱えられるかな、もう終わりにしたほうがいいかなという気持ちを抱えてのイベントだったのでした。

黒田 そうだったんだ!

井部 だけど、そのイベントに新しいお客さまが来てくれたり、そこでバイイングしてもらったり、1年後に連絡くれたりといいきっかけになって。その結果、今に至ります(笑)。

黒田 イベントやってよかったねえ。

井部 それでまだ頑張れるかなと思えたから、しばらくは大手アパレルさんの別注を受けたりしながら続けてきたんです。そのうち、ありがたいことにスタイリストさんたちの貸し出しも増えてきたけれど、事務所に見に来ていただくのが申し訳なくて。段ボールが積まれたような場所で、お茶を出すこともままならないし……。それでトモコさんにプレスをお願いしました。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

黒田 最初はiberi(井部がデザインするジュエリーブランド)だけのプレスを依頼されたような……。ところが夏を前に突然、「やっぱり傘のプレスもお願いします!」って電話が来て、「ええー!」って(笑)。アリス デイジー ローズは洋服やジュエリーがメインで、傘は取り扱ったことがなかった。だから傘のパーツの名前も知らなかったし、さばいてから開くなんていう取り扱い方も知らなかったんですよね。学ぶことがたくさんあって面白かったな。 

井部 トモコさんは、人への対応の仕方が素晴らしいんです。プレスルームに来る人たちと情報の交換をしたり、ブランドのPR以外の話をしたりして、みんなが「来てよかった!」という顔をして帰っていく。こういうことをきちんとできる人にプレスをお願いしたいなと思ったんですよね。

黒田 私はものを作れないから、もの作りができる人を無条件に尊敬しているんです。一人でコツコツともの作りをしている人はクリエイションに精一杯で、自分の良さをなかなか伝えられないのでは、と。素敵なものが世に知られないのはもったいない、そんな気持ちでプレスルームを始めました。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん
ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん
ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん
ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

井部 トモコさんとデザイナーさんたちとの付き合い方を見ていると、商品に対してのアドバイスは的確だし、「あなたの良さはここだから、もっと引き出したい」っていう気持ちをやんわり伝えている。こだわりのある人でも、すんなりと受け入れちゃうような感じ。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

黒田 デザイナーにもいろいろなタイプがいますよね。いろんなことをやってみたい人も、1つずつ納得しないと進めないっていう人もいて、私が担当しているデザイナーには後者のタイプが多い。ところが、素敵なものを作ることだけに注力していると、納期が遅れてしまったり、経費がかかりすぎてしまったりもする。だから私は、デザイナーに負担がかからないように、もの作りの流れを考えたり、裏にいる職人さんたちの声を届けたりすることにも、貢献できたらと思っています。

井部 もの作りの背景にいる工場さんや職人さんのことも考えているんですね。私も以前、1軒の傘屋さんに「たくさんの型を少しずつやるより、1型にしてください。それをきちんと売っていきましょう」って言われて。

黒田 それは、工場のライン(作業のための流れ)を作るって大変だからかな。

井部 もちろんそれまでも工場のことは知っているつもりだけど、1つの商品のためのラインを作ることがいかに大変かということが切実にわかって。

黒田 でも、そのときに言われてよかったね。

井部 本当にそう。それで、その工場では1型に集中しつつ、やっぱりバリエーションも欲しいから、ご縁があった別の工場さんにもお願いしています。

黒田 もの作りは、職人さんや工場さんがあってこそ。そこは私も大事に考えています。例えば雑誌に掲載していただくときも、文字数には制限があるから、こだわりのすべては載せられないですよね。だけど職人さんにとってみたら、本当はもっとここがポイントなんだよ、ということがある。だから私はデザイナーたちに、これがどうやってできているのかを根掘り葉掘り聞いて、できる限り展示会などで伝えるようにしています。

井部 展示会で話していることを聞いていると、トモコさんの感性も素敵だなと思います。

黒田 プレスルームで毎日サンプルを見ていると、展示会のときには気づかないこともあるんですよ。こんなところにこんな細工があったんだ!とか。裏側はこんなにきれいに始末されているのか、とか。そんなことも伝えたくなる。ただ、私はプレスとしてはプロフェッショナルじゃないかも、とも思うんです。好きなものを好きと言ってるだけだから、それが人に伝わるのは当たり前で。好みにかかわらず、長所を伝えられるのが本物のプレスだとも思うんだけど。

井部 そこがいいと思う。今は、コアな部分を持っている人がいいという時代だと思うから。万人向けのものを幅広く、というのは、私たちには無理ですね。

黒田 確かに、大人になればなるほど、身につけるものは好きなものがいいですよね。ブランドもプレスルームも山のようにあるなかで、こんな小さなところに来てくれる人はきっと同じ気持ちだろうし、ありがたいなと。

井部 トモコさんは大きな会社でPRとして働いてきたという経験があるから、今の「好きなものだけを伝えていく」という仕事の仕方を選んでいるのでしょうか。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

黒田 会社員時代に学んだことはすごく多いですね。その経験がベースではあるけれどいまは状況も違うし、経験値にあまり重きをおかず、デザイナーたちに押し付けることはしないようにとも思っています。デザイナーも人間だから、そのときどきの状況があるでしょう。ずっと絶好調なわけもないし、体調や家族の都合とかによって100%でできないときもある。でもそういうときにこそ寄り添っていきたいと思います。「今回は休んで大丈夫だから、次に最高のものを作ろう」とか、そんなふうに判断するのも大事。

井部 そこがトモコさんのディレクション能力ですね。

黒田 プレスの仕事って、これやったら100枚売れた!ということではなく、目に見えないものの価値を伝えることだと私は思うんです。言葉にするのがとても難しいのですが、自分なりにベストを尽くそうとは常に思っていて。ブランドの認知度が上がるには何年もかかるから、地道に続けるってことがすごく大事だと思っています。それをデザイナーと共有できたら嬉しいです。

井部 仕事っぷりをみてると、そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。そんなトモコさんだから、最初にロンドン行きを考えたときも、まっさきに相談しました。

黒田 私は会社員時代に海外での展示会を何度も経験していて、ロンドンに住んでいたこともあるので、「日本のものは高いし、イギリスで売るのは難しいと思う。それでも得るものがあると思えるならやってみたら? やるなら一生懸命がんばろう」って答えて。

井部 「売るのは甘くないよ。でもイギリス人は必ず言葉をくれるから」と言われたけれど、本当にその通りでした。カラフルな色や刺繍ワーク、ウッドハンドルなどに興味を持ってもらって、「beautiful!」「Fantastics!」とたくさん言ってもらった。

黒田 リアクションはよかったよね。いろいろと検証して乗り越えないといけない点があるから、すぐに海外展開は難しいけれど、今までのもの作りが間違いじゃなかったってことを実感できたと思う。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん
ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

井部 海外との経験が豊富なトモコさんと2週間過ごせたことはとても貴重でした。トモコさんが、初対面であろうが旧い付き合いであろうが、常に失礼のないような姿勢と言葉遣いで接することができる、エレガントでチャーミングな女性だということも再確認。人にお願いするときには、必ず「please」と「thank you」をつけて感謝の気持ちを表すように、とも教えてもらいました。

黒田 昔、尊敬している上司に「英語が喋れるひとは山ほどいるけど、いちばん大事なのはハートだから」って言われたんです。だからこそ、感謝の気持ちもきちんと伝えるし、間違っていることや嫌なこともはっきり言うべきだと思ってる。

井部 日本では、自分の主張が曖昧でも、相手になんとなく汲み取ってもらえることが当たり前。そこに慣れきっていたなと。4日間という短い期間でしたが、海外のイベントに参加することで、ブランドの今後の立ち位置を意識できたと思います。

黒田 でも私たち、生年月日も血液型もまったく一緒なのに、旅のスタイルがまったく違って面白かったね。

井部 トモコさんの旅支度を見るのも面白かった! 私は荷物はなるべく少なくしたい派なんだけど、トモコさんの荷物量はすごい多い。でもトランクの中がめちゃくちゃきれいでした。

黒田 私、パッキングが得意なの(笑)。「旅はファンタジー」だと思ってるから、好きな服をたくさん持って行く。以前はもっと多くて、旅先でまったく袖を通さないものもあったけれど、今はコーディネート帳をつけるようになったから、そんなことが減りました。

井部 私は2週間なら4日分の服でやりくりするからびっくりされたけど、トモコさんはさすが、毎日のコーディネートがすごく可愛い! ファッションに対する感性に感動したし、TPOに合わせたファッションが非常に大切であるということを改めて感じた旅でした。

ボンボンストア コラム vol.4 黒田トモコさん

黒田トモコ
プレスルーム、alice daisy rose主宰。MAISON RUBUS.やLiniEをはじめとしたジュエリーブランドや、TabrikやTOWAVASEといったファッションブランドなど、デザイナーが愛情深く制作し続ける、独特の世界観をもった日本のブランドを紹介している。2020年からイギリスのビーガンフレグランスキャンドル「LO(ロー)」の輸入販売も手がけている。
alice daisy rose

撮影/福場慎二 ライター/藤井志織

archive

category

follow us

mail magazine

bonbonstoreのメールマガジンでは新製品情報や様々なイベント情報をお届け予定です。ぜひご登録してください。